ブータンの仏教と歴史
  現在のブータンの地に仏教が伝えられたのは、7世紀初めにチベットを統一し、吐蕃の建国したソンツェンガンポ王の時とされる。チベットに仏教を導入したソンツェンガンポ王が、チベット全域に建立したとされる108の寺院のうち、現在のブータンの地にはパロのキチュ・ラカンとブムタンのジャンパ・ラカンがこれにあたると信じられている。
 7世紀中頃にはインドからチベットに密教(ニンマ派)を伝えたパドマサンバヴァの活動によりチベットに仏教が本格的に普及したとされ、ブータンではパロのタクツァン僧院やブムタンのクジェ・ラカンがタシ・ヤンツェのゴム・コラなどパドマサンバヴァの来歴の聖地とされ、パドマサンヴァ(グル・リンポチェ)は現在のブータンでも篤く信仰されている。その後、11世紀以降にチベット仏教に新しい諸派が成立し、西ブータンにはカギュ派のドゥク派やラ派が広まっていった。
 「ドゥク・ユル(雷龍の国)」を称する現在のブータンの原型が形成されたの17世紀になってからである。東チベット(アムド)のドゥク派の総本山のラルン寺の座主の地位にギャ氏(座主職を相伝する家系)のシャブドゥン・ガワン・ナムゲルが就くと、これに反対する化身ラマの一派との間で内紛がおこり、チベット中央政府の介入を招いた。この結果、座主織を追われたシャブドゥンは、ロ・モンとよばれていた現在のブータンに逃れ、1616年に政権を樹立した。シャブドゥンは、ドゥク派を国教と定め、各地にゾンを築き、数度にわたり侵攻してきたチベット軍を撃退し、各地の群雄を抑えて国家の枠組みをつくっていった。シャブドゥン死後、地方領主や地方行政官(ペンロブ)が力を強めていったが、その中から台頭したトンサのベンロブのジグメ・ナムゲルの子、ウゲン・ワンチェクは1907年に王位につき、現在にいたるまでこの地位は世襲されている。ドゥク派は現在も国教とされるが、ニンマ派の寺院が多い。
 
 
 ブータンの仏塔(チョルテン)
 チベット仏教を信仰するブータンでは、仏塔のことをチベットと同様、「チョルテン」とよぶ。チョルテンは、寺院(ゴンパ、ラカン)やゾンの内外、町や村、道路や峠、川の合流点など様々な所に建立されている。チョルテンは本来的には当然、釈尊の舎利を安置するものであるが、経典や聖者の遺体などの聖遺物を祀ったり、聖者の来訪や偉大な活仏等を記念して後世に伝えることを意図したり、または災いを避けたり、境界を示すものとしても建立されている。
 基本的な型式としては
ブータン式、チベット式、ネパール式の三種がある。パロとティンプーの県境のチュ・ゾムには、この三種の塔が並んでいることはよく知られている。

チュ・ゾムの三塔(左よりネパール式、チベット式、ブータン式)
 
 
チベット式は、チベットを中心に見られるもので、五輪を象徴する各部で構成される。「地」を象徴する方形基壇の上に「水」を象徴する壺型の塔身部が載り、その上には「火」を象徴する十三段の法輪、「風」「空」を象徴する月と太陽を戴く。全体的には先端に向かって窄まる細高い塔姿である。ティンプーのメモリアルチョルテンはこの型式の著名例である。ブータン全土に多く建てられており、特に道路脇にあるものはよく目立つ。

 
ネパール式は、ネパールに見られるもので、基壇上の覆鉢型の塔身で、インドのストゥーパの原型に近いが、平頭部の四方に「仏陀の眼」が描かれることが大きな特徴である。タシヤンツェのチョルテン・コラやトンサのチョンデブジ・チョルテンが著名である。東ブータンを中心に建立されているが、建立数はかなり少ない。また、大型のものはチベット式の小塔を周りに配していることがある。

 
 〔ネパール式〕 チョルテン・コラ(タシ・ヤンツェ)
   
 〔チベット式〕 メモリアル・チョルテン(ティンプー)

   ブータン式は、その起源は明らかではないが、ブータン独自のものとされる。基本的な形式は、切妻や宝形の屋根つきの方形の塔身で、多くは上方に宗教建築を表す「ケマ」とよばれる赤茶色の帯状のものが塗装される。単層が多いが、比較的規模の大きいものは二重のも(三重のものも)になることもあるが、上重は小さく造られる。
 ド・チュラに近年建立されたドゥルック・ウォンゲル・チョルテンは、この形式の塔108基で構成される。ブータン全土で建てられているが、西ブータンに特に多い。
 また、小型のチョルテンを3基ほどを繋いだ壁型のチョルテンも多く分布する。壁面には経文が書かれている。
 さらに例は少ないが、方形の門型のチョルテンもある。内部は空洞であり、天井部には曼荼羅が描かれている。
 「マニチュコル」は、仏塔ではないが、チョルテンとよく似た外観をもつ。内部は中空であり、マニ車を納めている。多くは水の流れのあるところに建てられ、その流れによりマニ車を廻している。

 

〔ブータン式〕 ドゥルック・ウォンゲル・チョルテン(ドチュ・ラ)
    
〔ブータン式〕 ウゲン・ワンチュク記念塔(パロ)
  
 
   
壁型のチョルテン
       
     門型のチョルテン
           
           マニ・チュコル    
 
 
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